すべての女性の体と心に寄り添うシャツ。
それを阿蘇で作りたい。
新しく生まれ変わった阿蘇くまもと空港3階には、ターミナル内唯一のブティック「gogaku」があります。
gogakuは、国内外で展示会を開催する、熊本が誇るシャツ専業ブランド。製作者・吉田義貴さんが世界中から集めた最高級の生地を用い、阿蘇の自社工場で丁寧に縫製を手がけたシャツは、着心地のよさと、授乳期のママにうれしい機能と、女性らしい曲線美が共存しています。
関西出身ながら熊本への強い愛情あふれる吉田さんに、阿蘇に根ざしてシャツメーカーを展開する理由を聞きました。
吉田義貴さん
神戸の「カフェ店長」から
阿蘇の「シャツ職人」へ
吉田さんと「熊本」の出会いは、2008年、熊本の阿蘇を旅行で訪れた時でした。そこには異国のような広大で自然豊かな緑と、阿蘇山をはじめとする山々が広がっていました。その光景を見た吉田さんは、「日本なのに海外のような風景が広がる、この環境でいつか仕事がしたい」と強く思ったそうです。
その吉田さんに転機が訪れたのは、31歳の時。カフェの店長として働きながら、自身のキャリアについて考え、このままでいいのだろうかと悩んでいた日のことです。つい深酒をしてしまった吉田さん。ふと目に入ったのがシャツでした。「なんか、シャツってええな」と思っていると、酔いもあってか、屋外から聞こえる音が「ほな、作ったらええやん」と聞こえた気がしました。「これは天啓では」と思った吉田さんは、シャツ作りに取り組む決意をします。
すぐに行動を起こした吉田さん。シャツの作りを理解するために、持っていたシャツを解体し、構造をじっくり見たところ、素人が作ることは不可能だと悟ります。けれどもあきらめず、独学で服飾の本を読み漁ること1年。何とか1着のシャツを作ることに成功しました。しかし、それは商品と言えるクオリティには達していませんでした。
そこで、「独学では時間がかかり過ぎる。プロから学ぼう」と地元の神戸文化服装学院の門を叩きます。「学校では先生に無理を言い、シャツ作りのみの指導を受けた」という吉田さん。技術を身につけ、卒業間際の3月3日、吉田さんはシャツメーカー「TRAILER」を立ち上げました。
阿蘇に強い〝引力〟を感じていた吉田さんは、起業後、熊本での事業展開を模索します。繰り返し熊本に通ううち、木工作家・木場佑一さん(株式会社BLANK・代表取締役)や、渡邉晋司さん(九州産交ランドマーク株式会社・代表取締役社長)と出会います。時代に左右されないシンプルで本質的な美しさや、吉田さん自身のシャツ作りへのまっすぐな情熱、熊本で頑張ろうという気概を高く評価した二人の後押しで、イベントで商品を披露する機会を得ます。これが、吉田さんの熊本での活動が始まった第一歩でした。
その後、さらにサンワ工務店・山野順一さんの助力も得て、憧れの阿蘇で店舗を構えることができました。
吉田さんは「木場さん、渡邉さん、山野さん。この3人のおかげで、僕が今熊本で活動できています。足を向けて寝れません」と語ります。
授乳期のママの
ために作られた
「Chemise et bébé」
阿蘇にある自社工場。
職人が1枚1枚
丁寧に仕立てています。
「gogaku」の
名前に込められた想い
シャツメーカーとしての経営が安定した頃、吉田さんのもとにはある要望が増えてきました。それは、「ママだけど、オシャレを楽しみたい」という声です。それは、 「ファッションを楽しみたい女性」の一面と「着心地や使いやすさを大切にしたい母」の一面、その両方を満たしたシャツを作ってほしいというものでした。
そこで、吉田さんが考えたのは、のちの「Chemise et bébé」と呼ばれるgogakuを象徴する商品です。
このシャツは、ドレープを描くフロントの前身頃(服の前方の胴部分)に特徴があります。授乳用の目隠し布をシャツに一体化させるという発想を、デザインに落とし込んでいるのです。そのため、外出時でも周りの目を気にせずに、授乳が可能。また、受注生産のシャツでは、バストにスリットを入れられるため、簡単に授乳することができます。二重になった前身頃は、美しいドレープを描き、女性らしい曲線美も演出しています。
このような、授乳期のママが外でも子どもに母乳を与えられ、かつオシャレでかわいいデザインのイメージが吉田さんの中にはありました。しかし、やっとメンズシャツが軌道に乗り始めたばかりで、それとは全く異なる作りのレディースを手がける資金はありませんでした。そんな状況下で、背中を押してくれたのは、阿蘇商工会議所の仲間たちです。「授乳期のママに向けたMade in 阿蘇、のシャツって面白いじゃないか!」と、資金調達に向けたアドバイスや助け舟を出してくれたのです。
やがて、助成金を受け「gogaku」を立ち上げた吉田さん。阿蘇の仲間のおかげでレディースシャツのブランドを創ることができたという思いから、「阿蘇五岳(根子岳・高岳・中岳・烏帽子岳・杵島岳などの総称)」より名前を取り、ブランド名を「gogaku」としたそうです。
今回の空港ターミナルへの出店は、「阿蘇から世界へ」という夢を持つ吉田さんにとって、大きな一歩でした。「さまざまな国からこの空港を訪れる人たちに、商品を実際に見て、触れてもらえる機会をいただけたことが夢のようです」と語る吉田さんの目は、ワクワクする少年のように輝いて見えました。
前身頃のドレープは授乳時の
目隠しにもなります。
オーダーメイドでの
カスタマイズも
可能です。