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天草の風景から生まれる美。INOUE YUMIさんと天草ボタンの物語。

2023/08/25

天草の風景から生まれる美。INOUE YUMIさんと天草ボタンの物語。

Photo/
Mori Kenichi,Natori Kazuhisa
Text/
Sakai Yuji

私のものづくり。そのすべては天草にある。

素敵なものづくりを続ける熊本ゆかりの作家をご紹介する連載、第2回は、ボタン作家・INOUE YUMIさんです。9月、編集部が訪れた、東京都内で行われたボタン展は、用意されていた作品のほとんどが初日に売れるほどの盛況。そんな、次の展示が心待ちにされる人気の天草ボタン。
どんな作家が、どのように制作しているのか知りたいと思い、11月中旬、INOUEさんのアトリエをたずねました。

INOUE YUMIさん

いのうえ・ゆみ/熊本県天草市生まれ。福岡大学経済学部卒業後、上京。日本デザイナー学院、文化服装学院でデザインと服飾を学ぶ。2011年に天草に帰郷、天草陶石を素材としたボタン作家として活動する。

天草ボタン
天草ボタン

「何十年もこの
ボタンを使って
もらえたら」と語る
INOUEさんのアトリエ。

器の原料である「陶石」を素材に、天草ゆかりのモチーフで絵付けをしたボタン。それが、INOUE YUMIさんが手がける天草ボタンです。
 物心ついた頃から、ミシンに触れていたというINOUEさん。祖母は着物をつくり、祖父は大工という、ものづくりが日常にある環境で育ちました。大学卒業後は、グラフィックデザインやファッションを学ぶために上京。学びながら、バッグや雑貨などの制作・販売を行います。
 転機となったのは、天草に帰省した際に訪れた、世界遺産の﨑津集落にある教会を目にしたとき。「まるで時間が止まっているかのような情景で、気がつくと涙が流れていました」。天草が、自分にとって特別な場所であることに気づいたINOUEさん。そんな天草でものづくりができればと、2011年に帰郷しました。そして、ここで創作をするからには、この土地について深く知りたいと考えたINOUEさんは、天草にある観光協会の職員募集を見て、これだと思い応募。観光協会の職員として島内をくまなく巡り、天草の歴史や風土への理解を深めます。
 そんな中、天草の高浜焼を知り、素材である天草陶石の透明感ある白さと、抜群の強度に驚き、魅せられます。洋服や雑貨を手がけてきた経験から、「洋服の表情を決めるのはボタン」と語るINOUEさん。「高浜焼を見て、これはボタンにするしかない。そう天啓のように感じました」
 ほどなくしてINOUEさんは、天草や有田の窯元に通い始め、さまざまな職人さんに教えを請います。試行錯誤の末、13年に天草ボタンが完成。17年『+botão』の名前でブランドを立ち上げ、展示・販売を開始します。
草ボタンの魅力の一つは、ボタンに描かれた絵。そのすべては、地元の風景がインスピレーションのもとになっています。「天草には、ここにしかない風景や文化があります。海も、刻一刻と変化し、異なる表情を見せてくれます。天草にいると、その一つひとつをボタンで表現したくなるんです」
 INOUEさんが一つひとつ、時間をかけて手づくりするため、大量生産できず、島外での定期的な展示・販売はありません。けれども、手のひらでぎゅっと握りしめたくなるほどの、いとしさを感じるこのボタン。ぜひINOUEさんのウェブサイトで展示予定をご確認いただき、あなたも、手にとってご覧ください。

天草
天草

ボタンの絵のアイディアを
INOUEさんにくれるのは
いつも天草。

column

白い磁器の
素材として
用いられる
天草陶石。

 INOUE YUMIさんのボタンの原料である天草陶石とは、熊本県天草地方で採掘される、主に白い磁器の素材として用いられる石のこと。鉄分が少ないため、透明感ある白さが特徴。国内では有田焼や清水焼などの主原料として使用されるほか、海外へも輸出されています。

天草陶石

写真提供:寿芳窯

column

天草ボタン
4つの工程

Step1 成形

天草陶石を粘土状にしたものを手でボタンの形に整え、面取りします。

Step2 素焼き

素焼き

乾燥させたのち、約900度で8〜10時間ほどかけて焼成します。

Step3 絵付け

絵付け

絵付け

ヤスリで表面をなめらかにし、筆で絵付け。天気や湿度に応じ、筆圧や描く速さを変えています。

Step4 本焼き

本焼き

釉薬をかけ、1,300度の高温で約13時間焼成。さらに余熱を2日かけて仕上げます。

完成

完成

店舗情報

天草ボタン

●ウェブサイト/https://www.amacusabotao.com/

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