「茶を以って
和を成す」
それが私たちの
思いです。
クリーム色のライトが灯る落ち着いたグレーのバーカウンターで、創業九十四年の老舗「お茶の富澤。」が淹れるお茶を飲めるお店「Tsuguto、」が新空港にオープン。
空港から車で10分ほど、行列が絶えない人気店「Greentea.Lab」店主であり、新たに空港店を出店した四代目・富澤堅仁さんに、お茶に込める思いをうかがいました。
お茶は楽しい!
届けたいのは
「懐かしくて
新しい」もの
伝統に裏打ちされながらも、日本茶の未来は明るく、楽しい。「Tsuguto、」のメニューからは、そんな声が聞こえてくるようです。
空港限定メニューの「くまもと茶粥」は、ほうじ茶の茶粥。奈良の郷土料理である茶粥を現地でひと月食べ歩き、勉強させてもらいました。その特徴は、これまでお茶をまるごと楽しむメニューを数々考案してきた富澤さんだからこそ出せる、お米を引き立てるほうじ茶の風味。香ばしく、やさしい苦味がさっぱりとしていて、旅疲れした体を癒してくれます。トッピングには、地元阿蘇の高菜、梅干しに明太子。ひかえめな塩味がほっと心に寄り添います。
「今日の茶と、おやつセット」は、空港限定の「一口おやつ団子」とお芋が、色とりどりにお茶の上の台に載せられた、見た目にも楽しいセットです。地元・小谷(おやつ)の芋屋長兵衛さんとのコラボで作られたお芋の餡と、お茶が練り込まれた餡のおやつ団子。「〝小谷のおやつ〟を作りたいと思って」と楽しそうに語る富澤さんによって、食べる人にとっても楽しいおやつが出来上がりました。お茶とセットで片手で持ち歩けるカップが、空港内でのせわしさをひととき忘れさせてくれます。
空港店の
コンセプトは、
ネオ・
おばあちゃんち!
メニューに共通する富澤さんの思いは、懐かしくて新しい、ほっとするひとときの提供。「縁側でお茶を飲みながら、おばあちゃんがいろんなものを出してくれた、あの懐かしい情景を、現代の若い人や海外の方にも感じてもらいたいんです。〝ネオ・おばあちゃんち〟と思ってもらえたら」
たしかに、おばあちゃんの家には、懐かしさと同時に、何が出てくるかわからないワクワク感がありました。炭酸で抽出する「緑茶スパークリング」、好きな緑茶の茶葉を注文し、その急須の中に玄米茶を混ぜることができる「炒り玄米茶カスタム」。玄米茶の香ばしい香りが追加され、お茶ってそんなこともできるんだな、こんな風に楽しんでもいいんだなと思えます。「Tsuguto、」のお茶を通して、おばあちゃんがいたずらっ子みたいな笑顔でそのことを教えてくれるような気がしました。
九十四年の
伝統が作る
オリジナル
ブレンド茶
空港店限定で出されるお茶は、「まるくにがい 玉緑茶」と「まるくあまい 玉緑茶」。九州発祥で日本最古の製茶法・青柳製法の流れをくむ蒸し製玉緑茶で生産された茶葉のオリジナルブレンドです。甘味と苦味、そして丸味が特徴的なお茶。これを決めるにも、空港店ならではの試行錯誤がありました。
手早い提供を求められる空港のそれは、本店「Greentea.Lab」での手間と時間を掛けて淹れるお茶とは、相反するものでした。本店では、旨味を出すため、茶葉とお湯を入れた急須を振りながら抽出してまた急須に戻すことを3回繰り返します。茶葉の種類によっても淹れ方や水の温度も変えていく、繊細な作業です。
そんな本店にも引けを取らないお茶にしたい。そんな想いから、スピードと旨味が共存した新たなブレンドを、富澤さんは創り出したのです。
さらに、本店に比べて茶葉が開くのを待つ時間が取れない分、どうやって旨味を出しやすくするか、茶葉の量、淹れ方、温度もすべて、研究し尽くしたのです。「急須を何度も振りながら、10回程度を目処に注ぎ分けて、一杯のお茶を淹れていきます」。そう言う富澤さんの手元には、注ぎ分けを経て、その色を徐々に深く濃くしていった、美しい一杯の緑茶がありました。
「お茶は『、(てん)』なんです。何かと何かを繋ぐ点。空港を通り過ぎていく人が、束の間、ほっとひと息できる。その『、』を僕たちが潤すことで、その人たちがまた次の場所や人へと繋がっていく。そんな存在になれたらと思って、『Tsuguto、』という店名をつけています」
アイスもホットも急須で、しかも、一度の急須で淹れるお茶は一杯だけ。茶葉の旨味を最大限に発揮する急須へのこだわりが、たった一杯のお茶に込められています。この„クイック"な贅沢が、私たちをほんのひととき、ほっとひと息つかせてくれるのです。
「ひと とき 休す、」
人と時を、ほっとひと息させる。
ひととき、この急須で。
企業理念に
込めた想い
「茶を以って和を成す」は、「お茶の富澤。」の企業理念。この言葉は、四代目の富澤さんが作った言葉です。大雑把な自分では、三代目の父を超えられない。そんな思いを出発点に、お茶作りへの向き合い方を考え、自分に何が足りないのかを見きわめていったそうです。それが本店「Greentea.Lab」でのお茶の研究へ繋がり、現在の富澤さんの、勘に頼らないクオリティー保持やたゆまぬ努力、新しいお茶を創造する柔軟性へと繋がっていきました。
「人の嫉みや妬み、憎しみ、争いごとがなく、みんな笑い合っている。そんな『和』の状態を、お茶を以ってできたら、それは幸せだと思います」。富澤さんの研究は、この理念を置き去りにしないからこそ、お茶が味で応えてくれるのかもしれません。
「お茶の富澤。」四代目
富澤堅仁さん
「お茶の文化に馴染みのない若い世代や海外の方が、お茶が苦手なわけではないと思うんです。今のジャパニーズクオリティーをぜひ見ていただきたいです」